苗場山麓の食物連鎖・水中

 食物連鎖は自然界のシステムであり、生物種の関係性における「食べる」「食べられる」を表現する言葉である。食物連鎖には階層があり、大きく分けて3つに分類される。それぞれ『消費者』『生産者』『分解者』と呼ばれる。生物の量を図にするとピラミッドのような形になる。これを生態系ピラミッドと呼び、上位であるほど広大な土地(餌場)を必要とし、数が減っていく。そのため、下位の生物がその数を減らしピラミッドの形が歪な物に変化した場合、この食物連鎖によって自然は回っている。目に見えないほど小さい生き物、大きな生き物、人類など全ての生き物は必ず食物連鎖の輪の中に入っている。例外は無い。
 生態系をピラミッドで表現した。しかし、本来の生態系は下から上に一直線で表現されることはなく、実際には網の目のように複雑に絡んでいる(食物網)。
 水中の生態系で特に重要なのが、「プランクトン」の存在である。このプランクトンは、水の中を漂って生活している生物の総称であるが、2種類に分けることが出来る。「植物プランクトン」と「動物プランクトン」である。これらプランクトンは一部が分解者であるが、水中の全生態系を、栄養の供給者として支える、とても重要な生物である。

分解者
 細菌類(バクテリア)、菌類(カビや酵母など)、貝類などを総称して分解者と呼ぶ。甲殻類と水生昆虫を分解者として分類することもあるが、ここでは2次消費者として分類し、区別している。しかし、分解者としての働きが両種にあることも事実である。
 分解者がいなければ、水の中は生物の死骸や落ち葉などの有機物で溢れ、水質が悪化し、生物が生息できる環境ではなくなってしまう。貝類や甲殻類、水生昆虫などが有機物を細かくして食べることで、微生物が分解する手助けとなる。有機物を無機物へと分解することで、水生植物にとっての養分となる。
 水槽で水生生物を飼育する場合や、下水・排水処理上では、この微生物を利用して水の浄化作業が行われている。
  • 苗場山麓にはマルタニシ、オオタニシ、カワニナ、モノアラガイ、ヒメモノアラガイ、サカマキガイが確認されている。二枚貝の確認はマシジミがされているが、現在(2026年)は確認報告がないため、生息しているかは不明である。
  • タニシやカワニナといった巻貝は、藻類や植物プランクトン、落ち葉や動物の死骸、土中の有機物を食べる。貝類が排泄したフンは、藻類やプランクトンがエサとして増える。この増えた藻類やプランクトンは他の水生生物のエサとなる。他にも、微生物によって排泄物は分解され、堆肥化されることで、植物にとっての栄養となる。


  • 生産者
     水中の生物たちにも必要なモノが酸素である。水中への酸素の供給の仕方は色々あり、水面から水中へと混ざり合うこと、水生植物による光合成、滝による攪拌、人為的な供給によって水中へと酸素は送り込まれている。 分解者の働きによって有機物を水、二酸化炭素、窒素やリンなどの栄養分へと分解する。この栄養分を吸い上げることで、水生植物は成長し、水中へと酸素を供給している。
     水生植物は「抽水植物」、「浮葉植物」、「浮遊(浮漂)植物」、「沈水植物」の4種類に分類される。

    水生植物の種類(絵:中沢英正)

    抽水植物:アギナシ、オモダカ、ガマ、コガマ、ヒメガマ、カンガレイ、キカシグサ、コナギ、ショウブ、ヘラオモダカ、ミクリ など
    浮葉植物:ジュンサイ、ヒルムシロ、イチョウウキゴケ、ホソバミズヒキモ など
    浮遊(浮漂)植物:タヌキモ、イヌタヌキモなど
    沈水植物:バイカモ、ミズオオバコ、ヤナギスブタ、ヤナギモ など

     目に見えるかたちの水生植物だけでなく、植物プランクトンが水中には多く存在している。陸上と違うのは、このプランクトンの存在である。植物プランクトンは光合成をして酸素を水中へと放出している。また、水生生物の多くがこの植物プランクトンを糧としている。

    植物プランクトン:アオミドロ、ミカヅキモ、ツヅミモ、ミドリムシなど

    植物プランクトン (絵:中沢英正)
  • 植物プランクトンは基本的に自ら動くことは出来ず、水中を漂っているか、流れに身を任せているだけだが、ミドリムシは鞭毛を使って自ら動くことが出来る。
  • 消費者
     陸上での食物連鎖と同様に、3つに分類した。

    第1次消費者
     動物プランクトンがあてはまり、主に植物プランクトンを食べている。植物プランクトンと動物プランクトンの分類は、光合成を行っているかどうかで判別している。
     
    動物プランクトン:ミジンコ類、ケンミジンコ、ワムシ、ゾウリムシ、ツリガネムシ

    動物プランクトン (絵:中沢英正)
  • ミジンコの仲間は池や田んぼ、流れのゆるやかな河川のよどみに生息する、体長0.2~0.5mmほどの動物プランクトンである。ミジンコといっても、多くの種類がおり、カニやエビと同じ仲間で甲殻類に属している。ミジンコとケンミジンコ、他にも二枚貝のようなカイミジンコがいるが、どれも甲殻類である。植物プランクトンや動物の死骸を分解する時に発生するバクテリア(細菌)を食べている。動物の死骸に群がって食べているのは、カイミジンコで、死骸や食べ残しなどを食べ水質の浄化に貢献している。
  • 第2次消費者
     草食と肉食の水生昆虫、エビやカニといった甲殻類をあてはめた。甲殻類と水生昆虫をここでは2次消費者として分類している。

    草食の水生昆虫
    カワゲラ類:オナシカワゲラ
    カゲロウ類:エルモンヒラタカゲロウ、フタスジモンカゲロウ など
    トビケラ類:ヒゲナガカワトビケラ、ニンギョウトビケラ など
    その他:クロバアミカ、ヒラタドロムシ、ガガンボ類 など

  • エルモンヒラタカゲロウは、カゲロウ類を代表する種類である。平たい身体をしており、石の表面に張り付き、付着している藻類を食べている。
  • トビケラ類は石の裏などに葉や石などを使って巣穴を作り、そこで流れてきた有機物を作り出したネットで集めて食べる種と、動き回って付着した藻類や落ち葉を食べる種がいる。種によって作られる巣の材質と形は違う。ニンギョウトビケラのケース自体は細かな石粒で作り、その側面に3つの大きめの石をつける。


  • 肉食の水生昆虫
    カワゲラ類:キカワゲラ、カワゲラ、トワダカワゲラ などトビケラ類:ムナグロナガレトビケラ、ヒロアタマナガレトビケラ など。その他:ヘビトンボ、ヤゴ類、ナベブタムシ、タイコウチ、ミズカマキリ、タガメ、 ホタルの幼虫、シマイシビル、ウマビル

  • 肉食のカワゲラ類の中でも、キカワゲラは特にきれいな水質でなおかつ、メロン大の石がゴロゴロしている河川でなければ生息できない。このキカワゲラが生息するということが、優れた河川環境だという指標になっている。
  • ヘビトンボは水生昆虫最大の捕食者で、他の水生昆虫を捕食している。キカワゲラと同じような環境を好み、メロン大の石が多く、きれいな水質から少し汚い水質に生息している。
  • キカワゲラ
    甲殻類
    エビ類:スジエビ、ヌマエビ、ホウネンエビ、キタヨコエビ
    カニ類:サワガニ

  • 新潟にはヌマエビと東北日本海型のヌカエビが生息し、ともに植物食である。スジエビは肉食で気性が荒い。
  • サワガニは、日本固有種で一生を淡水で過ごす唯一のカニである。地域によって体色が赤色や青色などに変化する。オスは右のハサミが大きくなり、メスは左右同じ大きさになる。雑食性で、植物、落ち葉や昆虫、などを食べる浅い河川や小川の岸側や石の裏で見られる。
  • サワガニ

    第3次消費者
     イワナやヤマメのような肉食の中型魚類や、ウグイなどの雑食の中型~小型魚類を分類した。

    イワナ
  • イワナは悪食であり、動物プランクトン、他の魚種、水生昆虫、落下昆虫、両生類を食べるだけでなく、ヘビを食べたという記録もある。イワナが生息する水域では上流にイワナ、下流にヤマメやアマゴと棲み分けを行っている。
  • 自然界の高位消費者
     ナマズやウナギのような大型の肉食魚類を分類した。

    ナマズ(絵:中沢英正)
  • ナマズは現在日本全国に生息しているが、新潟県では江戸時代後期頃に移入された国内外来種である。自然分布は中部地方から九州地方の西日本である。
    湖沼や流れのゆるい河川の中、下流域に生息している。夜行性で、肉食魚。小魚、甲殻類、カエルやヘビなど、その口に入るものなら何でも捕食する、大食漢である。
  • ニホンウナギ(絵:中沢英正)
  • 日本全国の河口から上流域、湖沼や海の内湾などに生息し、多様な環境に適応している。ナマズ同様に夜行性で食欲旺盛で貪欲。小魚や甲殻類、昆虫類などを食べる。あまりにも貪欲なため、陸上に上陸し、陸上生物であるミミズやムカデ、ゴキブリなどを捕食していることが明らかになっている。
    ウナギの生態については謎が多く、特に産卵場所については長年の謎とされてきた。降河回遊魚のウナギは産卵のために海へと降り、再び川や湖沼へと戻ってくる。この産卵場所が特定されたのは2005年のことであり、西マリアナ海嶺付近だと考えられている。

  • 参考文献

    永田俊 1993 『微生物ループと水圏物質循環―溶存有機物の生成と分解をめぐって―』 Bulletin of Japanese Society of Microbial Ecology 8 149-155
    土壌微生物研究会 1997 『新・土の微生物(2) 植物の育成と微生物』 博友社
    田中正明 2002 『日本淡水動植物プランクトン図鑑』 名古屋大学出版会
    加藤雅啓・海老原淳 2011 『日本の固有植物』 東海大学出版会
    苗場山麓ジオパーク振興協議会 2018 『苗場山麓植物民俗事典』 ほおずき書籍