人と動植物の関わり 食べられてきた動植物

 日本には春夏秋冬の四季があり、それぞれの季節に『旬』が存在する。旬とは、1年の中で野菜・果物・魚などの食材が最も味が良く、栄養価が高い状態であり、多く収穫できる時期のことである。最近のことではなく、縄文時代から『旬』に合わせた食生活が営われていたと考えられる。
縄文カレンダー
二十四節季(絵:中沢英正)

〈春〉
 立春のころはまだ雪に厚く覆われている。
 春の旬と言えば、「山菜」である。山菜とは、元々は山野を中心に自生する食用の植物を指している。人の手による改良を重ねてきた野菜とは別で分類されている。苗場山麓では、年にもよるが、3月頃から地表が見え始め、フキノトウが一番に顔をのぞかせる。
 北海道から沖縄まで、多くの地域で親しまれ、約300種類の食べられる種類が確認されている。
 山菜には苦味、えぐ味などの成分をもつものがあり、アクとして風味に一役買っている。中には有毒な成分を含むことから、アク抜きをしなければ食べられないものもある。アク抜きの方法としては、茹でる、灰を使う、塩漬けにするなどがあり、山菜によって異なる。現在は灰が手に入りにくいので、代わりに重層を使うことが多い。
 暮らしのサイクルの中で重要な食料のひとつであった山菜は、乾燥や塩漬けにするなどで保存しておき、年中行事の時のごちそうにもなった。

木本:コシアブラ、サンショウ、タラノキ、ニワトコ、ヤマウコギ、ミツバアケビ
草本:アサツキ、ウド、クサソテツ、ゼンマイ、トリアシショウマ、フキ、ヨモギ、ワラビ
魚類:サクラマス

タラノキ
 苗場山麓では標高約200m~約1,500mで見られるが、低山や人里の日当たりの良い林縁や荒れ地に多い。枝が太く、鋭いトゲがたくさんつく。太い枝につく若芽が食べられるが、1本の木につく若芽は少なく、全てを採ってしまうと枯死してしまう。

アサツキ
 苗場山麓では標高約200m~約500mの日当たりと風通しが良い場所で見られる。ネギの仲間だが、ネギよりも淡い色をしているため、『浅葱』と書かれる。食用ネギ類の中では最も細い。若葉はネギと同様に薬味などに利用されるが、ネギよりも辛みが強い。また、鱗茎を食す。

〈夏〉
 立夏のころから里では田植えが始まる。田植えが終わると気温が上がり始め、夏を感じるようになる。そして、タケノコの採取が始まり、夏至のころには、キイチゴやトウグミなどの果実類が実り始める。

木本:ナワシロイチゴ、クマイチゴ、エビガライチゴ、トウグミ、クワノミ、チシマザサ
草本:ミョウガ、シソ、ドクダミ、ノビル
魚類:アユ、イワナ、ヤマメ、ウナギ、どじょう

キイチゴ類
 キイチゴ類の果実は熟すと甘酸っぱく、生食できるため、子どもに人気がある。ジャムやジュースとしても利用できる。苗場山麓には12種類の仲間が見られるが、目にする機会のないものが多い。最も馴染み深いのがナワシロイチゴで、人里の日当たりの良い草地に生育している。クマイチゴとエビガライチゴは、標高約400m~約1,500mの深山の日当たりの良い林縁や荒れ地で見かける。

エビガライチゴ
クマイチゴ
ナワシロイチゴ

ミョウガ
 標高約200m~約900mに見られ、人里に多い。元は中国東南部が原産で、古い時代から渡来し栽培された物が野生化したと言われている。陰地や湿気のあるところで生育する。地下茎から地上に出た花芽を食べる。出る時期によって夏ミョウガと秋ミョウガに、または早生、中生、晩生に区別される。酢の物や漬物、汁の具として食べる以外に、生を刻んで湯を注いで飲むと咳止めとなる。

〈秋〉
 秋は実りの季節と言われ、トチノミやドングリなどの果実が次々と熟していく。秋分のころには稲刈りも始まり、冬への準備が始まる。キノコ類も多く採れる。今のように安定的に食事が出来ていなかった時代の人や野生動物にとって、冬という厳しい季節を乗り切るために、ここでどれだけ食べられるか、保存できるかが命題となる。

木本:トチノミ、ドングリ、クリ、サルナシ、オニグルミ、アケビ、ヤマブドウ、ブナ
草本:ヤマノイモ など
魚類:シロサケ など
キノコ類:マイタケ、シメジ、シイタケ、ナメコ、ヒラタケ など

ヤマブドウ
 標高300m~1,500mの広い範囲に見られるが、深山に多い。ブナなどの高木に絡みつき繁茂する。野生のブドウで、栽培品種と比べると果実は小さく、酸味があるが、ポリフェノールなどの有効成分が多く含まれる。

ヤマノイモ
 標高約200m~700mで見られる。蔓は辺りかまわず絡みつき、細長いハート形の葉を広げる。ジネンジョの別名でも知られ、地下に長く伸びる芋は生態的には茎や根とは異なる「担根体」と呼ばれる器官である。また、芋同様に、ムカゴと呼ばれる蔓の先端に出来る球芽も食べられてきた。

キノコ類
 マイタケやシメジ、シイタケがよく知られているが、現在では栽培品種が多い。
 マイタケは味良し、香り良し、食感良し、と3拍子揃うキノコとして昔から好まれてきたキノコである。そのため、見つけたら小躍りするほど喜んだことからその名がついたとされている。

ヤマブドウ
ヤマノイモ
マイタケ

〈冬〉
 苗場山麓の冬は約3m以上もの雪が積もり、雪解けまで数ヶ月も要する。そのため、植物で採取して食べられるものは無いに等しく、春から秋にかけて、季節ごとに採取しておいた動植物の保存食を食べていた。しかし、動物であれば、ノウサギやムササビ、カモシカ(天然記念物指定される以前)などの、冬眠しない動物を捕獲し、食べていた。ツキノワグマは冬眠中を狙って狩りをしていたが、秋田マタギの人たちによる技術だと考えられるため、それまでは冬眠中を狙って狩猟し、食べていたかは定かではない。

哺乳類:ノウサギ、ムササビ、ツキノワグマ、カモシカ

ニホンカモシカ
  • 日本の固有種で、国の特別天然記念物に指定されている。
    ブナやミズナラなどの落葉広葉樹林を主な生息場所としている。岩場や崖などでも容易に行動できる。名前にシカと入っているが、ウシの仲間で食べると美味しく、毛皮も需要があり、捕獲も容易だったため、一時的に絶滅が危惧されていたが、保護によって安定した個体群を維持できるようになった。

参考文献

苗場山麓ジオパーク振興協議会 2018 『苗場山麓植物民俗事典』 ほおずき書籍
苗場山麓ジオパーク振興協議会 2021 『苗場山麓ジオパークGUIDEBOOK』 ほおずき書籍
栄村誌編纂委員会 2022 『長野県 栄村誌 自然編』 信毎書籍印刷株式会社