右岸微高地に構築された円形の竪穴住居跡が機能停止した後、埋没過程において、火をたく行為に関わり儀礼用の道具が廃棄されたと推測される。その一群には、完全な形を残す石剣と破損した石剣、石冠、おいねずみ型石冠が出土した。有機質性の儀礼道具が存在したと推測されるが、分解されて残っていない。
これら石製儀器は、男性原理が共通していると考えられる。すなわち、石剣の基部形態、石冠の上部形態、おいねずみ型石冠(反転して観察できる先端の膨らむ形態)は、男性性器の亀頭部を模倣したと考えられる。また、石冠の基部は楕円形を呈することから、それは女性原理であり、石冠は両性具有であると解釈する研究者もいる。
このような生殖器模倣を背景に持つと推察される儀器が、水辺環境近傍から出土した意味は深い。今後、類例を探し、検討することになる。


参考文献
- 徳澤啓一・石川季彦 1996
- 『越佐補遺些 創刊号』 越佐補遺些の会
- 長田友也 2010
- 「石製品からみた正面ヶ原A遺跡の精神文化」『津南シンポジウムⅥ 正面ヶ原A遺跡から垣間見る縄文社会-北信越の縄文時代後期後葉から晩期前葉-』 津南町教育委員会
- 佐藤雅一 2021
- 「新潟県中魚沼郡津南町に出土した石製品-「おいねずみ型石冠」について-」『東海石器研究 第11号 齊藤基先生追悼号』 東海石器研究会