根茎類の利用-民俗事例-

 縄文時代中期の遺跡では、打製石斧という石器が多く出土する。この石器の用途は、 土堀具と想定され、多く出土する理由として、根茎類の利用が考えられている。
縄文時代中期以前および中期以後には、この打製石斧の出土数は出土数は少ない。温暖な中期においては、根茎類を対象とした生業が盛んに行われたことが想定されるが、冷涼化した気候によって、根茎類の利用ができなくなったため、減少したと考えられる。
 近現代の民俗事例において、利用される根茎類には、自然界から採取するヤマイモ(自然薯)、クズ、ワラビ、カタクリ、ユリなどがある。そして、栽培種としては、里芋、じゃがいも、さつまいもなどがある。
縄文時代まで遡るのは、ヤマイモ(自然薯)、クズ、ワラビ、カタクリ、ユリである。
 ヤマイモ(自然薯)、ユリは、そのまま調理して食べることが想定される。クズ、ワラビ、カタクリなどは、根からデンプンを取り出しての利用が想定され、その工程は以下の図の通りである。
さらに、民俗事例を紹介する。

●ワラビ【特徴】

春~初夏にかけて若芽を食用する。若芽は毒を含むため生では食べない。根茎は含まれるデンプンを「ワラビ粉」として精製して食用とする。夏緑性で、山野の日当たりのいい場所に普通に群生する。根茎は径5~10mmで地中深く長く育つ。

【収穫時期(根)】

岐阜県中洞 9月初め~12月の雪が降るころまで
岐阜県日和田 5月中旬から約1か月間、9月中旬から11月下旬
長野県奈川村 秋過ぎから5月頃までの無雪期間、11月中旬から雪の降り積もるまで
岩手県遠野市 雪解け~ワラビの発芽まで、秋~冬のホダが枯れて雪が積もるまで

【加工・処理方法】

◎岩手県遠野市
第1工程:地下茎を掘る。第2工程:ワラビ根を洗い、砕く。
第3工程:麻袋に入れ、水を加えて絞る。第4工程:ワラビ粉を天日に干し、乾燥させる。
秋田県仙北群西木村
第1工程:ワラビ根を採取する。第2工程:ワラビ根を洗い、潰す。
第3工程:水を入れて攪拌する。デンプンを沈殿させ、灰汁水を捨てる。2~3回繰り返す。うわ水を捨てる。デンプンを取る。
秋田県北秋田郡阿仁町
第1工程:ワラビ根を採取する。第2工程:ワラビ根を洗い、根を叩く。
第3工程:布袋に入れ、デンプンを絞り出す。沈殿させ、うわ水を捨てる。1~2回繰り返し、デンプンを取る。第4工程:桶に入れて乾燥させる。

●カタクリ【特徴】

春先に紅紫の花を咲かせたあと、地上部は枯れて休眠する。発芽から開花まで8~9年ほどかかる。球根部から片栗粉が作られる。原野・山地に生える多年生草本で、根茎部は白色多肉の鱗片状で数個が連なっている。

【収穫時期(根)】

石川県白山麓 春

【加工・処理方法】

◎石川県小松市小原(第1系列)
第1工程:球根を採取する。第2工程:球根をすりおろし、布で濾し、デンプンを沈殿させる。※しぼりかすを食用とする。
石川県小松市小原(第2系列)
第1工程:球根を採取する。第2工程:球根を天日で乾燥させる。
第3工程:球根を砕き、石臼でひく。

●クズ【特徴】

花は万葉の時代から秋の七草に数えられる。春から初夏にかけて若芽が出る。根塊に含まれるデンプンを用いてクズ粉や漢方薬が作られる。日当たりのよい山野に自生する落葉ツル性植物であり、木々が伐採されると著しい勢いで侵入してくる。

【収穫時期(根)】

奈良県宇陀郡大宇陀町上新 秋~冬、特に秋に採集し、冬場の農家の稼ぎとなる。
島根県迩摩郡温泉津町西田 11月終わりから3月
福島県甘木市下秋月 12月から3月いっぱい
石川県白山麓 お盆~初冬

【加工・処理方法】

◎奈良県宇陀郡大宇陀町上新
第1工程:根を採取する。
第2工程:根を潰す。
第3工程:潰した根を洗い、黒くなった水を濾し、粗クズを沈殿させる。
第4工程:粗クズを運ぶ。
第5工程:粗クズを溶解し、デンプンを沈殿させる。うわ水を捨て、デンプンをおこし、削る。デンプンを溶解させ、沈殿させる。これを複数回繰り返す。
第6工程:うわ水を捨て、デンプンを取り上げる。屋外で乾かし、屋内で乾燥させる。

◎島根県迩摩郡温泉津町西田
第1工程:クズ根を採取する。
第2工程:クズ根を粗・中・仕上げの順に敲(たた)く。
第3工程:砕いたクズ根を洗い、汁を粗越しする。汁を木綿袋で濾し、沈殿させる。うわ水を捨てる。清水を入れて溶解させ、沈殿させる。
第4工程:うわ水を捨てる。粗玉を桶に入れて溶解させ、沈殿させる。この工程を「さらす」といい、4~6回繰り返すモノを「並物」、8~9回繰り返すモノを「上物」と呼ぶ。
第5工程:沈殿したデンプンを取りだし、日陰干しを行う。

◎福島県甘木市下秋月の事例
第1工程:クズ根を採取する。
第2工程:クズ根を潰す。
第3工程:潰した根を洗い、クズ根を絞る。液を濾し、汁を一昼夜寝かせる。うわ水を捨て、沈殿しているデンプンを取る。
第4工程:粗づくりしたデンプンを運ぶ。
第5工程:真水でデンプンを溶解させ、沈殿させる。うわ水を捨て、デンプンをおこす。デンプンに付いたゴミを削り落とす。これを4~5回繰り返す。
第6工程:日陰干しをする。

●ジネンジョ(ヤマノイモ)【特徴】

イモ(担根体)は晩秋(11~1月)になって地上部が枯れるころが収穫時期である。山野・林・藪に普通に生える多年草。秋から夏に長大な根が株元から垂直にのびる。

【収穫時期(根)】

石川県珠洲市馬緤町吉国 9月末~11月
石川県羽咋市福水 11月16日
石川県白山麓 お盆~初冬

【加工・処理方法】

◎『広益国産考』
第1工程:ツルをたぐり、掘る。
第2工程:水で洗い、ヒゲをむしる。臼でひき、桶にこそげとる。
第3工程:ザルに根を入れ、水をかけながら手で揉む。
第4工程:臼でひく。
第5工程:ザルに柏を入れ、水をかけながら揉む。布袋に絞った水を入れ、絞る。1にほどすましておく。
第6工程:うわ水を捨て、水を入れて攪拌し、1日置く。これを4~5回繰り返す。第7工程:うわ水を捨てる。包丁でおこし、日に干す。

以下、民俗事例は第1工程(根を掘る工程)のみわかったのでまとめた。

◎石川県珠洲市馬緤町吉国
第1工程:ツルを探し掘り、きれいに尻まで出す。
◎石川県複咋市福水
第1工程:ツルを探し掘る。
◎石川県小松市小原
第1工程:ツルを探し、丁寧に周囲を掘り起し、丁寧にほじくりだす、
◎新潟県岩群新潟県岩船郡朝日村
第1工程:周りを広く掘り、仕上げ掘りをする。



参考・引用文献

松山利夫1975「野生食用植物の加工方法に関する事例研究―白山麓の場合―」『石川県白山自然保護センター研究報告』(2)、石川県埋蔵文化財センター
山本直人1995「野生根茎類食糧化に関する事例研究―クズとワラビを中心にして―」『名古屋大学文学部研究論集(史学)』第42巻、名古屋大学文学部
山本直人1996「野生地下茎食糧に関する事例研究」『名古屋大学文学部研究論集(史学)』第43巻、名古屋大学文学部
山本直人1997「縄文時代における野生地下茎食糧化の地域性と季節性」『名古屋大学文学部研究論集(史学)』第44巻、名古屋大学文学部