植物は動物にとって無くてはならない存在である。草食動物はもちろん、我々人類のような雑食動物も、木の実や山菜などを食べてきた。他にも縄文時代から作られた竪穴式住居をクリなどの木材を利用して作ってきた。しかし、植物もただ食べられ、利用されるだけの存在ではない。もちろん、動物に種を広範囲に運んでもらう種もいるが、逆に毒やトゲなどを用いて自らを守る種類もいる。むしろ、植物全体で見ると毒性を持つ植物の方が多いとも言われている。
実際に毒を持つ植物、トゲを持つ植物、他の方法で守る植物はこの苗場山麓にどれだけ確認されているのだろうか。それらは我々にどれだけの害があるのか、対処法はあるのか。紹介していきたい。
〈有毒植物〉
常緑高木:イチイ
常緑小高木:ツルシキミ
落葉小高木:エゴノキ
落葉低木:ドクウツギ、レンゲツツジ
ツル性木本:アオツヅラフジ
草本:アズマレイジンソウ、エゾヒョウタンボク、クサノオウ、クララ、コバイケイソウ、センニンソウ、ドクゼリ、トリカブト類、ハシリドコロ、ヒガンバナ、フクジュソウ、ホウチャクソウ、マムシグサ、ミズバショウ、ミヤマキケマン、ムラサキケマン、ワラビ、ワルナスビ
トリカブト、ドクゼリ、ドクウツギは日本三大有毒植物と呼ばれるほどに危険な植物である。その毒性は他の毒草の追随を許さない。しかし、エゾヒョウタンボクはトリカブトに次ぐ毒性があるとされている。なぜトリカブト、ドクゼリ、ドクウツギが日本三大有毒植物に選ばれたのか。
3種類とも毒性が強いのは当然のことだが、見た目や生息地から誤食のリスクが高いこと、古くからその危険性が認識されており、文献などで語り継がれてきたためと考えられる。
トリカブトは有名な有毒植物で、サスペンスドラマなどで聞いたことがあるだろう。日本に約30種類自生しているが、地域差や変異が激しいため、分類が難しいとされている。苗場山麓では、オクトリカブトとハクバブシが確認されている。標高400~2,000mで見られる。アコニチンというアルカロイド系の毒で、神経に作用する。毒の強弱は種類、産地、時期で変化する。若芽をニリンソウやモミジガサと間違えて食べて中毒を起こす事例があるが、いまだに解毒剤は出来ていない。



ドクゼリはその名の通り、毒をもつセリの仲間である。食用となることが多い仲間であることから、若葉をセリと間違えて中毒を起こす事例がある。全草に毒があるが、特に根茎部に毒がある。根茎部は見た目がワサビに似ている。縦に割るとタケノコのような見た目のため美味しそうであるが、シクトキシンという神経毒が含まれており、食後すぐに痙攣や意識障害がみられ、呼吸困難となり死に至ることもある


ドクウツギは、ドクウツギ科という独自の科を持ち、古い形態を持つことから、『生きた化石』と呼ばれている。世界では約10種、日本には1種類のみが生育しており、どれも強い毒性を持っている。特に果実が曲者である。色づき熟し始めるとブドウのような黒紫色になり、美味しく見える。実際に甘味があることから、昔は子どもたちの中毒が多く発生していた。そのため、日当たりのいい荒れ地、河原、岩礫地などで人が近づきやすい場所に生えているドクウツギは駆除され続けてきた。毒成分はコルアミルチンで、嘔吐・痙攣などの症状があり、酷い時には呼吸困難から死亡することもある。イチロベーゴロシ、バーコロシ、ヨメゴロシ、ヒトコロバシなどの恐ろしい地方名がある。

〈有刺植物〉
落葉高木:ハリエンジュ、ハリギリ
落葉低木:イヌザンショウ、サルトリイバラ、サンショウ、タラノキ、ナワシロイチゴ、ノイバラ、モミジイチゴ、ヤマウコギ、ハリブキ
草本:アカネ、アキノウナギツカミ、カナムグラ、ママコノシリヌグイ、ヤエムグラ、ノアザミ、ノハラアザミ
棘を有する植物の棘は、葉や枝が変化したものが多い。例えば、園芸品種のザクロは棘に葉がついているため、枝が棘に変化したと分かる。
- ハリブキは標高1,500m以上でしか見られない。葉の表裏、茎、実をつける穂の茎にも鋭いトゲが無数にある。トゲがないのは実の部分だけである。これは、シカなどの草食動物に食べられないようにするためだと考えられている。
- タラノキは標高200~1,500mで見られるが、低山や人里の日当たりの良い林縁や荒れ地に多い。枝が太く、鋭いトゲが多い。若芽は山菜として人気があるが、1本の木になる数は少なく、全てを採ってしまうと枯死してしまう。


〈かぶれる植物〉
落葉低木:ヤマウルシ
草本:センニンソウ
- ウルシは古い時代に中国から渡来されたと言われている。漆や蝋を採るために各地で植栽されてきた。苗場山麓で現在見られるものは、その末裔であり、人里に多く、山中の自然林の中では見出せない。
- ヤマウルシは山野に自生するもので、明るい林内や林縁に多い。苗場山麓では標高200~1,600mで見かけ、ブナ林の下では足の踏み場もないほど幼木が生えていることがある。ウルシもヤマウルシも樹液にウルシオールという成分が含まれていて、かぶれの原因となる。敏感な人は近くを通っただけで症状が出ることがある。

〈切れる植物〉
草本:チシマザサ、チマキザサ、ススキなどのイネ科の植物
- チシマザサやチマキザサは、イネ科の植物である。イネ科に属する植物は基本的に葉の側面が切れやすくなっている。
- タケ・ササ類の茎は中空であることから「稈(かん)」と呼ばれ、節があり、その節から枝や葉を出すという特徴がある。一般的には大型のものをタケ、小型のものをササと呼ぶが、正確には稈から稈鞘(タケノコの時の皮)が早く取れるものをタケ、枯れたままで長く残っているものをササと呼ぶ。日本海側の雪深い場所に対応した種類で、根元が斜めになって立ち上がることから、チシマザサは別名をネマガリタケと呼ぶ。別名にタケと入るが、ササの仲間である。若芽は食用とされるが、クマの好物でもあるため、鉢合わせに注意したい。
- チマキザサは葉を利用してきたササである。この葉も側面で切れることがあるが、扱い方に注意していれば大丈夫である。また、新葉は三角チマキや笹団子、笹飴を包む際に利用される。三角チマキに利用されることからその名がついたとされる。
- ススキは苗場山麓では、標高800~1,300mの草原、土手、荒れ地、道端などの日当たりの良い場所なら至る所に生えている。古くから和歌や俳句などに詠まれることが多く、『万葉集』の中にも「をばな」「かや」の名で登場してくる。秋の七草の1つであり、「中秋の名月」を愛でる習慣では、団子を供え、この花穂を添える。葉を触ると、ザラザラしており、手が切れて出血することもある。それは、ススキの葉の縁には、ガラスと同じ成分である二酸化ケイ素(珪酸)で出来た細かいトゲが、鋸の歯のように並んでいるためである。ドライフラワーなどで使用することもあるが、枯れた後もこのトゲは残るため、注意が必要である。




〈危険なきのこ〉
キノコは人気のある山の幸である。秋の幸というイメージが強いが、春から冬まで見つけることが出来る。ナメコ、マイタケ、ナラタケなどが好まれて取られてきた。しかし、安全に食べられるキノコは少なく、キノコのほとんどは毒キノコで食べられない。
毒キノコ:ツキヨタケ、ドクササコ、ドクツルタケ、カエンタケ、ベニテングタケ
- ツキヨタケは、夏から秋にかけてブナなどの広葉樹の枯れ木に重なるように発生し、シイタケやムキタケなどに似ているため、中毒が発生している。嘔吐や腹痛などの消化器系の中毒症状が現れるが、まれに幻覚症状も伴う。暗闇で光るが、その光は弱く、暗闇になれてくると見えるようになる。肉の内部に黒いシミがあるため、そこで見分けられるが、なかにはこのシミが無い個体もあるため、注意が必要である。
- ドクササコは、広葉樹林や竹やぶに発生する。竹や笹やぶに群生することから名づけられた。ナラタケやホテイシメジに似ているため間違いやすい。日本海側に多く見られる。中央部が凹んで浅い漏斗状になる。猛毒であり、食べると早くて6時間から症状が現れる。手足の先端が赤く腫れ、火傷のような激痛が1ヵ月以上続く。この激痛を我慢することが出来なくて自死を選択する人もいたという。
- ドクツルタケは、初夏から秋の針葉樹林や広葉樹林と、広く発生する。食用のシロタツタケモドキに似ているが、似たキノコには猛毒のキノコが多いため、白いキノコは控えたほうがよい。食後6時間から症状が出始め、コレラのような症状が現われて回復した後、4日後から肝臓肥大、黄疸、胃腸の出血などの内臓の細胞が破壊された結果、死に至ることがある。適切な処置を行えば回復する。
- カエンタケは、夏から秋、ナラ類などの広葉樹林に群生して発生する。表面がオレンジから赤色をしているため、分かりやすい。食後30分から発熱、悪寒、嘔吐などの症状が現われ、2日後に消化器不全、小脳萎縮による運動障害などの脳神経障害によって死に至ることもある。また、触るだけでも危険で、皮膚がただれ、ボロボロとむけてしまう。赤いキノコを見たら触ることすらせずに離れることが大事である。
- ベニテングタケの赤地に白玉模様は、おとぎ話の絵本や雑貨などに登場する代表的なキノコである。最盛期は9月で、白樺の林に発生し、条件が良ければ、多くのベニテングタケが輪になって発生するようである。この様子から、西洋では妖精たちが輪になって踊った跡という言い伝えから、フェアリーリングと呼ぶことがある。長野県の一部では、塩漬けにして毒抜きし、食べている地域もあるという。美味しいキノコだというが、下痢や嘔吐、強い幻覚症状、筋肉のけいれんなどが起きるため、知識の無い人は食べない方がいい。




参考・引用文献
津南町の自然植物編・編集委員会 1994 『津南町の自然 植物編』 津南町教育委員会
豊国秀夫 1988 『山渓カラー名鑑 日本の高山植物』 株)山と渓谷社
湯沢町史編さん室 2005 『湯沢町史・双書6 湯沢の自然―植物―』 湯沢町教育委員会
苗場山麓ジオパーク振興協議会 2018 『苗場山麓植物民俗事典』 ほおずき書籍
苗場山麓ジオパーク振興協議会 2021 『苗場山麓ジオパークGUIDEBOOK』 ほおずき書籍
栄村誌編纂委員会 2022 『長野県 栄村誌 自然編』 信毎書籍印刷株式会社

