大洞式土器文化の南端に位置する蒲原平野と信濃川で繋がる苗場山麓では、正面ヶ原A遺跡出土の土器相からの把握、大洞式土器文化圏の中に苗場山麓は無く、信州の佐野式土器文化圏の北端部に位置すると考えられる。さらに粗製土器の土器相から判断するならば、佐野式土器文化圏の中において、北端という地理的環境から大洞式土器文化圏南端部と佐野式土器中心部から影響を受けており、両者の要素を含んだ在地土器相を形成している。そのような環境を踏まえて、出土遺物から「モノの動き」を推察したい。
モノの動きとして、最も特徴的なものは黒曜石である。正面ヶ原A遺跡では、津南町における縄文時代の遺跡で最も多くの黒曜石が出土している。その産地は、蛍光X線による原産地分析によって、長野県星ヶ塔産であることが明らかになっている。新潟県においては、この時期では信州に近い上越市籠峰遺跡と本遺跡で黒曜石が多く出土する。このほか、剝片石器では、玉髄、鉄石英、黄玉、碧玉など破間川流域の石材も出土する。
磨製石斧では、糸魚川地域の蛇紋岩類製が出土し、製品がもたらされたと考えられる。このほか、千曲川流域に分布する輝緑岩製の磨製石斧が出土している。このように、多様な地域から様々な「モノの動き」を読み取ることができる。
参考文献
中郷村教育委員会 2000 『新潟県中頸城郡中郷村籠峰遺跡発掘調査報告書Ⅱ』 中郷村教育委員会
佐藤雅一ほか 2020 『千曲川-信濃川流域の縄文文化 火焔土器前夜の世界』 津南町教育委員会