押圧縄文系土器

　多縄文系土器群は押圧縄文土器段階を経て、回転縄文土器段階を迎えたと苗場山麓では捉えられる。その押圧縄文土器段階の標識資料が、津南町本ノ木遺跡であり、その一群を佐藤達夫は「本ノ木式土器」と呼称した（佐藤達夫：1971）。
　本ノ木式土器は、隆起線文系土器の系譜的残映が観察できる（写真）。すなわち、押圧縄文土器段階の古相に位置付ける根拠がここにある。佐藤によれば「側面圧痕・側面圧痕＋爪形文・ハの字爪形文・無文・斜行沈線文」の土器相で構成されるという。この本ノ木遺跡の標識資料に類似する土器群は、苗場山麓に分布し、現段階で10ヵ所確認できる。それらの土器相と標識資料を比較するならば、やや型式学的に違いがあり、その違いは時間変遷が背景にあると推測されている。すなわち、押圧縄文土器が主体を占める時間を「本ノ木式土器」と呼び、その変遷を少なくとも3段階に区分する考え方がある。その考え方は、本ノ木式土器の標識資料→卯ノ木南遺跡古段階→卯ノ木南遺跡新段階の変遷である。卯ノ木南遺跡の2段階変化は、施文原体と文様構成の違いを基準に分類される。また、この本ノ木式土器（狭義：古相→広義：新相2段階）には、回転縄文手法やそれに伴う表裏縄文土器は伴わない。
　本ノ木式土器は、ハの字爪形文を多用する特徴がある。器形変換部位と文様横帯が相関する場合が多く、その変換部位に横ハの字爪形文を文様帯境界として施文する場合が多い。

参考文献

佐藤達夫　1971　「縄紋式土器研究の課題―特に草創期前半の編年について―」『日本歴史』227号
佐藤雅一ほか　2017　『本ノ木－調査・研究の歩みと60年目の視点－』　津南町教育委員会