隆起線文系土器と石器群

 縄文時代草創期の隆起線文系土器以前に帰属すると考えられている肥厚系口縁土器は列島全体に分布しているとは言えず、まだ、その実態は不詳である。しかし、隆起線文系土器は、本州、四国、九州に面的な分布域を持ち、凡列島的な土器である。また、九州に分布する隆起線文系土器は重要である。一つは北九州と南九州では、その土器相に違いがある。北九州の隆起線文系土器には後期旧石器時代系譜の細石刃石器群が伴う場合がある。また、福井洞窟遺跡や泉福寺洞窟遺跡から出土した隆起線文系土器の中には、新潟県から出土する隆起線文系土器に酷似する資料が存在する。
一方、南九州の隆起線文系土器はやや土器相が異なり、石皿や磨石など東日本で確認できない石器組成を保有する。また、南九州に分布する土器相は、静岡県の葛原沢第Ⅳ遺跡出土の土器群に類似するとする見方があり、その背景に黒潮による海洋移動が推定されている。
さて、新潟県で検出された隆起線文系土器の発見地点は、12ヵ所であり、その約75%が苗場山麓である。そのうち、土器相と石器群の明確な共伴関係は、3地点に限られる。それらは土器相の違いから少なくとも2段階の変遷が推測される。具体的には久保寺南遺跡→北林C遺跡・胴抜原B遺跡である。
久保寺南遺跡は、一見すると神子柴・長者久保系石器群と考えられる薄手の木葉形尖頭器と石刃素材の削器が存在する。それに有溝砥石や打製石斧などが組成する。明確な有舌尖頭器は確認できない。
北林C遺跡では、局部磨製石斧に隆起線文が伴う小規模な活動痕跡である。
胴抜原B遺跡の大きな特徴は、有舌尖頭器の存在である。その形態は関東地方に分布する「花見山型」である。この花見山型有舌尖頭器に局部磨製石斧と尖頭器が伴う。
また、苗場山麓から北東約60kmに位置する魚沼市黒姫洞窟遺跡では、微隆起線文土器に伴い打製石斧や削器、掻器に混じり有舌尖頭器が共伴する。それが「小瀬が沢型」と「花見山型」の2形態の有舌尖頭器である。
今後、苗場山麓と守門山麓(黒姫洞窟遺跡)に分布する隆起線文系土器を保有する活動痕跡を丹念に踏査し、石器組成や石材構成などの遺跡間検証を行い行動連鎖の可能性を射程にした研究の扉を開く必要がある。
久保寺南遺跡 石槍
胴抜原A遺跡出土資料

参考文献

佐世保市教育委員会 2016 『史跡福井洞窟遺跡報告書』
麻生優 1985 『泉福寺洞窟の発掘記録』 築地書館
沼津市教育委員会 2001 『葛原沢第Ⅳ遺跡(a・b区)発掘調査報告書』
佐藤雅一ほか 2001 『久保寺南遺跡』 中里村教育委員会
今井哲哉ほか 2011 『北林A遺跡・北林C遺跡』 津南町教育委員会
佐藤信之ほか 2022 『胴抜原B遺跡』 津南町教育委員会
小林達雄ほか 2004 『黒姫洞窟遺跡』 入広瀬村教育委員会