標高によって変わる生殖

はじめに
 苗場山麓は山々に囲まれた土地であるが、かつては海の底であった。その後隆起し、各山々の火山活動によって火山噴出物が堆積した。その土地を千曲川‐信濃川やその支流が少しずつ侵食した。毛無山は約170万~100万年前に火山活動があり、鳥甲山は約80万年前から3期に分かれて噴火している。苗場山は約30万年前から4回噴火している。
 幾度にも渡る噴火と隆起、河川の侵食によって約1,600mや約2,000mを超えた標高を持つ山々が周囲に点在している。これらの山々にはそれぞれ特徴があり、植生の変化が見られる山もあるが、標高による植生の変化が一番顕著である。

苗場山麓の地形環境
 長野県栄村と新潟県津南町を範囲とする苗場山麓の総面積は441.8㎢となる。そのうちの約84%が山林、残りの16%が田畑や住宅地となっている。
 この地域は信濃川河川敷の標高約170m(津南町三箇地区)から栄村にある佐武流山山頂の2,192mまで、約2,000mにも及ぶ大きな標高差がある。この標高差による気温差や雨量・積雪量などの違いが、多様な自然環境を生み出し、津南町では約1,300種、栄村が約1,400種、苗場山麓全体では約1,500種におよぶ植物と約143種の動物の生息を可能にした。
 信濃川の左岸と右岸では地形や地質に違いが見られる。それに伴い植生も影響を受ける。
 左岸は、栄村では関田山地をつくる火山岩や泥流などの火山砕屑物で覆われている。津南町では魚沼層群の砂岩・泥岩互層・亜炭層及び関田山地ができる過程で崩壊や地滑りによる堆積物が集積し、広範囲な丘陵地帯となっている。右岸は、栄村では毛無火山の大規模な活動による火砕流やその崩壊堆積物、及び鳥甲火山の泥流や噴出物からなる山岳丘陵地形が広がる。一方津南町では、苗場火山活動による堆積物、中津川両岸にまたがる本地域最古の基盤となる結東層(グリーンタフ)が分布する丘陵とともに、一大特徴となる河岸段丘が発達している。このように千曲川・信濃川や志久見川や中津川を境界として、それぞれの右岸や左岸では地形・地質に特色がある。
 「石落し」に見られるような段丘崖は、苗場山麓の特徴である。この段丘崖には、人の手が入り、現在は主にスギが植林されている。他の崖については急峻かつ貧栄養の岩石が露出しており、過酷な環境下となっている。
標高2,145mの苗場山山頂と、苗場山北側斜面の中ほど標高1,340mから1,550mほどの間にある小松原には、それぞれ湿原がある。苗場山山頂の湿原は、約10㎢の平坦面にあり、約3,000個を超える池塘がある。小松原湿原は、全体で約39.39㎢で、上ノ代、中ノ代、下ノ代の3つに分かれており、中ノ代が一番広く、上ノ代がそれに次ぐ。
これら苗場山の山頂湿原と小松原にある高層湿原は、小瀬ヶ原と同じような湿原である。
溶岩の上のくぼみに水が溜まり、池が出来ると池の中に土砂が流れ込み、水生植物が侵入する。高地で寒冷なため、植物は腐敗・分解されないまま堆積して泥炭になり沼は浅くなる。そして、栄養分の少ないところでも育つミズゴケがその上に繁茂するようになる。ミズゴケの遺骸は泥炭となってしだいに厚くなっていく。苗場山頂では泥炭の厚さが約140cmになっている。山頂付近は、ミズゴケが育ち、表面が盛り上がった高層湿原である。

毛無山
 野沢温泉村に位置し、約170万~100万年前に火山活動があった標高1,650mの成層火山であると推定されている。スキー場を設けたため草原のようになっているが、ブナ林がメインの広葉樹林が広がる。

鳥甲山
 日本二百名山で標高2,037mの火山。約80万年前に形成された成層火山で、南から「白倉山-剃刀岩-鳥甲山-布岩山」の連山を含んで「鳥甲火山」と総称している。江戸時代の文人、鈴木牧之は『秋山記行』の中で、鳥甲火山を「赤倉山」と総称し、あえて赤茶色で表現している。牧之の描いた赤倉山には大小様々な峰が描かれており、これらを「十三万仏山」とも呼んでいる。
鳥甲山は岩場が広がっており、尾根には針葉樹林がメインに見られ、崩れて堆積した場所には広葉樹林が見られる。

苗場山
 新潟県では苗場山と呼ばれるが、長野県では『幕山』と呼ばれている。
苗場山の登山口は2025年3月において、小赤沢、見倉、赤湯、湯沢(三俣口)となっている。
 見倉の登山口は標高750m付近にある。ここから金城山を経て標高1,400mの小松原まで続くが、一部ブナ林を伐採してスギを植林した。ブナ林はチシマザサが優占し、ヤマウルシ、アオダモ、タムシバが混交する。
標高1,500m以降はオオシラビソが優占し、やがて針葉樹林帯へと変化していく。オオシラビソ林の中に草原が現われる。この草原にはかつての高層湿原が乾燥化し、池塘跡のくぼ地がある。


参考資料

津南町の自然植物編・編集委員会 1994 『津南町の自然 植物編』 津南町教育委員会
篠田正道 2005 『苗場の自然―苗場山・小松原自然観察ガイドブック―』
 十日町市立理科教育センター
加藤雅啓 2011 「日本の固有植物」加藤雅啓・海老原淳編『日本の固有植物』3-10 東海大学出版会
清水善和 2014 「日本列島における森林の成立過程と植生帯のとらえ方―東アジアの視点から」『地域学研究 第27号』19-75 駒澤大学応用地理研究所