高層湿原と水辺の植物

1.湿原に見られる植物

苗場山頂台地や小松原には高層湿原と言われる、ミズゴケ類を主体とする湿潤な湿原が発達している。
 苗場山山頂付近に広がる高層湿原には、3,000にもおよぶ池塘と呼ばれる大小の池が点在している。これらの池塘は、近年の堆積物調査により、約7,000年前から形成が始まったものと考えられ、その背景に多雪化があると推測されている。ここの池塘にはヤチスゲやミヤマホタルイといった植物が生え、あたかも苗田(苗代)のような景観がつくられ、「神が苗を植えた場所」ということから、「苗場山」と名付けられたと、平安時代の書物『延喜式』で書かれている。
 また、小松原湿原は苗場山の北方斜面、標高1,340~1,550m付近に広がっている。標高の低いところから、下ノ代(下ノ屋敷)、中ノ代(中ノ屋敷)、上ノ代(上ノ屋敷)の3つの湿原に分かれている。
苗場山山頂に広がる湿原
小松原小松原湿原の池塘
苗場山山頂付近の湿原は苗場山の4回目の噴火後、小松原の湿原は3回目の噴火後に火山灰などが堆積して形づくられた湿原である。標高が高く冷涼な気候のため、枯れた植物が分解されにくく、堆積して泥炭となっている。この泥炭の積もる速さは、1年間に1mm程度と言われている。そのため、土壌は強酸性で、貧栄養な厳しい環境であり、ヒメシャクナゲ、ツルコケモモ、クロマメノキなどの小低木や、コバイケイソウ、タテヤマリンドウ、キンコウカなどの限られた草本しか生育していない。湿原の周囲にはベニサラサドウダン、ウラジロヨウラク、ミネカエデ、アカミノイヌツゲなどの低木が生育し、独特の景観をつくっている。

落葉低木:ベニサラサドウダン、ウラジロヨウラク など
常緑低木:ツルコケモモ、ヒメシャクナゲ など
草本:トキソウ、サワラン、キンコウカ、イワカガミ、コバイケイソウ、ワタスゲ、ヤチスゲ、ミヤマホタルイ、モウセンゴケ など
トキソウ
ベニサラサドウダン

2.苗場山麓の水生植物

 水生植物とは、河川や湖沼、ため池や水田などといった様々な環境下において、水中・水辺に生育する植物の総称であり、異なる複数の系統に渡って多様な種を含む生物群である。多くの場合、水生の維管束(いかんそく)植物(種子植物とシダ植物)を指して「水草」と呼ぶが、広義にはコケ植物や車軸藻類、などの大型藻類も「水生植物」として扱う。
 苗場山麓に自生する水生植物において、約120~150種類の水生植物が確認されているが、それらはその生活様式において、抽水植物・浮遊(浮漂)植物・浮葉植物・沈水植物の4つに大別される。
 抽(ちゅう)水(すい)植物は、ガマ類やヨシのように、根が水中にあり、茎や葉の大部分を水面上に伸ばして生育する。
 浮遊(浮漂)植物は、根は水底につかず、植物体は水面に浮かんだ状態で生育する。
 浮葉植物は、根は水底につき、葉を水面に浮かべた状態で生育する。
 沈水植物は、根から葉まで完全に水中に沈んだ状態で生育する。

抽水植物:アギナシ、オモダカ、ガマ、コガマ、ヒメガマ、カンガレイ、キカシグサ、コナギ、ショウブ、ヘラオモダカ、ミクリ など
浮遊(浮漂)植物:タヌキモ、イヌタヌキモなど
浮葉植物:ジュンサイ、ヒルムシロ、イチョウウキゴケ、ホソバミズヒキモ など
沈水植物:バイカモ、ミズオオバコ、ヤナギスブタ、ヤナギモ など

 苗場山麓にはガマ、コガマ、ヒメガマの3種のガマ類が自生しており、どれも日当たりが良い水辺に生育する。標高800~1,000mで見ることが出来るが、コガマとヒメガマは稀である。
 水辺の植物の多くは、宅地開発や田畑のかんがい用のU字溝の設置、河川改修や農薬の使用などの環境の変化を受けやすく、生育地を減らしている。ミズオオバコやヤナギスブタ、イチョウウキゴケ、イヌタヌキモなど、かつてはいたるところで当たり前のように見られていた植物は、山間地のため池や廃村になって取り残された池沼などにかろうじて見ることができる。
ミズオオバコ
イヌタヌキモ
 バイカモは日本の固有種であり、冷たい流れのある水域に繁茂しているニホンを代表する水生植物の1つである。苗場山麓でも船津川のような小河川では2000年代初頭まではよく見られていた。しかし、外来種であるコカナダモの侵入などによって、生育場所が減少してきており、船津川の下流域(下島川)ではコカナダモが一面を覆い尽くすように繁茂しているところが多くある。
バイカモ(黄緑色)とコカナダモ(茶色)
参考資料

豊国秀夫 1988 『山渓カラー名鑑 日本の高山植物』 株)山と渓谷社
湯沢町史編さん室 2005 『湯沢町史・双書6 湯沢の自然―植物―』 湯沢町教育委員会
篠田正道 2005 『苗場の自然―苗場山・小松原自然観察ガイドブック―』 十日町市立理科教育センター
加藤雅啓・海老原淳 2011 『日本の固有植物』 東海大学出版会
清水善和 2014 「日本列島における森林の成立過程と植生帯のとらえ方-東アジアの視点から」『地域学研究 第27号』 駒澤大学応用地理研究所
苗場山麓ジオパーク振興協議会 2018 『苗場山麓植物民俗事典』 ほおずき書籍
苗場山麓ジオパーク振興協議会 2021 『苗場山麓ジオパークGUIDEBOOK』 ほおずき書籍
栄村誌編纂委員会 2022 『長野県 栄村誌 自然編』 信毎書籍印刷株式会社