文様の多様な発展ー前期の土器ー

 縄文土器の文様は、草創期・早期を経て土器装飾の基礎(装飾性文様)が生み出されると、前期に至ってそれらは地域性豊かに、かつ多様に発展した。
前期では、「装飾性文様A」の縄文に多くの工夫が加えられ、縄文の条が羽状構成となる所謂「羽状縄文」が開発されて盛行し、その前半期を特徴づける文様となる。それにとどまらず、縄文の撚りも後述のように多数考案され、原体を反映する文様も多種多様となる。まさに前期は縄文の一大発展期ともいえる。
一方、早期中頃に出現した「装飾性文様B」も地域や時期によりさらなる発展を遂げる。それらを特徴づける「沈線文」が文様図形に無限の発展を可能にした。特に2条の描線を同時に施文する「竹管文」が出現し、土器文様の中核を担うようになる。
 苗場山麓の前期では、古い順に「花積下層式」、「諏訪前東A式」、「諸磯a~c式」期の土器、集合沈線文土器などが登場する。
 前期の古い部分から中頃(前半)までに土器装飾は、「花積下層式」や「諏訪前東A式」の事例のように、胴部上半に「竹管文」などの文様が、胴部下半には「羽状縄文」が配置される。「羽状縄文」とは、縄文の「条」が羽状の構成となるものである。胴部上半は「装飾性文様B」に、下半は「装飾性文様A」にそれぞれ対応し、胴部上半の「装飾性文様B」に装飾の中心が置かれる。 
 「装飾性文様B」は、上記の「花積下層式」では、蕨手状の渦巻文が反復して単位的に描かれている。また下半の縄文との境は横方向の隆帯で明確に区分している。前者を「単位文」、後者を「区画文」と呼ぶ。また、この時期に出現した「竹管文」には、2条の描線を同時に引いた「竹管文」などの他に、前期の中頃までに「爪形文」が広く採用されるようになる。
苗場山麓の前期の土器1
 前期の新しい時期になると、当初(諸磯a式期)は前半期の装飾性文様の配置を踏襲しているが、やがて終わり頃(諸磯c式)に近づくと、器面全面を装飾性文様Bの「竹管文」(平行沈線文、集合沈線文)が覆うようになる。この頃には、縄文などの装飾性文様Aは器面全面を覆う「竹管文」の下地に用いられる程度となる。
 このように前期でも新しい時期には、それ以前に文様の中心となった「装飾性文様B」がさらに発達し、土器の器面全面に展開するとともに、「装飾性文様A」は文様の脇役へと後退していく。前期の土器変遷は、「装飾性文様B」が強調され、装飾の中心となって発展を遂げていくのである。
苗場山麓の前期の土器2
 前期は縄文原体や施文方法が多様化し、施文される“縄文”が飛躍的に発展した。なかでも前期を通じて用いられた「羽状縄文」は、前期縄文の代名詞とも言えるもので、意図する文様(羽状構成)を表現するため、あえて回転する方向を変えたり、異なる原体を組み合わせていた。
 縄文原体も工夫をこらして種類を増やしていった。原体の先端に環状を設けた撚りを回転させたもの、「付加縄文」といって撚った縄を軸にして、別の条を巻きつけた原体を回転させたもの、2本の縄文原体を1本に結束して施文したものなどが新たに加わった。
 こうした様々な撚りをもつ縄文の原体は、「組紐」と共に、前期のやや古い時期(前期前葉)を中心に特に発達する。
縄文の多様化と発展
 「竹管文」は、縄文土器を特徴づける文様の1つで、前期に出現し、主にその中頃から新しい時期にかけて時期や地域によって多様に発展した。
 「竹管文」とは、中空・円筒状となる竹管状の工具(以下、竹管状工具)を用いて描かれる文様の総称である。爪形文やコンパス文などもその一部を成す。
竹管状工具と竹管文(爪形文)
前期の竹管文の展開
参考・引用文献

津南町教育委員会 2024 『苗場山麓の土器文様―縄文土器の文様変遷史―』